#3 不動産所得

#3 不動産所得

不動産所得とは、不動産の(土地、建物および地上権などの権利含む)所有者が、その不動産を貸して得た所得のことをいいます。

不動産の貸付収入がある場合、まず、その収入が不動産所得に該当するのかを判定する必要があります。少し細かいですが、難しくないので順番にみていきましょう。

不動産所得の判定

不動産を持っている人が、その不動産を人に貸して、収入があれば全て不動産収入になるわけではありません。

例えば、ホテルのような不動産に人が付随するようなサービスや事業に付随するようなサービスは事業所得雑所得に分類される場合があります。不動産の貸付の形態により判断する必要がありますので、下の具体例を参考にしてください。

 

具体例

貸付形態別の所得区分判定は以下の通りです。

ポイントは不動産に付随したサービスを行っているか否かです。

不動産所得に該当事業所得、雑所得に該当
・マンション、アパート等の家賃収入
・借地権等の貸付による収入
・建物に広告等を出させて得る収入
・ホテル事業の収入
・食事提供のある下宿
・保管責任を伴う時間極駐車場、駐輪場

 

 

不動産所得が事業的規模か

不動産所得は、「事業的規模」か「業務的規模」(事業的規模よりも小規模)のいずれに該当するかによって、青色申告特別控除、事業専従者給与そして資産損失の取り扱いが異なります。「事業的規模」に該当すると、税務上有利な扱いとなります。

 

「事業的規模」の判定方法

事業的規模と判定されるためには、以下の基準に該当する必要があります。


①マンション、アパート等の場合、貸している室数が10室以上

②戸建て貸家の場合、貸している家が5棟以上

③駐車場等の土地の貸付の場合、貸している件数が50件以上

例えば、戸建てを1棟、マンションを2室、駐車場を15件貸し付けていたとします。この場合、上記基準のいずれにもあてはまりませんが、合計(戸建1棟=5室換算、駐車場15件=3室換算)で10室となるため、事業的規模に該当します。戸建、マンション等、駐車場は1:2:10の割合と覚えておくとよいでしょう。

 

 

不動産所得の計算方法

不動産所得は、事業所得と同様に総収入金額から必要経費を差し引いて、計算します。また、青色申告の要件を満たしていれば、さらに青色申告特別控除額を差し引くことができます。

不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費 - 青色申告特別控除(※)

(※)差し引くことができるのは、青色申告の要件を満たしている青色申告者だけです。事業的規模に該当すれば、65万円の特別控除、業務的規模であれば10万円の特別控除になります。

 

 

総収入金額に含めるべきもの

総収入金額には、不動産の貸付による収入のほか、次のようなものも含まれます。

収入の内容
共益費として受け取った収入(水道光熱費、掃除代等)
返還しない敷金や保証金
更新料、名義書き換え料等

 

 

収入の計上時期

賃貸料収入は、原則として契約により支払日が決まっていれば、支払日に計上します。例えば、翌年1月の家賃を当年12月に支払う契約になっていれば、当年の収入となります。例外として、継続的に「前受収益」、「未収収益」の経理をしている場合、その期間に対応した賃貸料収入の計上が認められています。賃貸料収入のうち、支払日が定められていない場合は、支払いがなされた日に収入計上します。

 

更新料等などで資産の引渡しをしないものについては、契約の効力発生日に収入に計上します。また、返還不要の敷金については、返還しないことが確定した日に収入に計上します。

 

 

 

必要経費に含めることができるもの

不動産所得の必要経費となるものは、次のような費用です。

内容説明および注意事項
借入金の利子不動産取得のために借入を行った場合、その利子は必要経費になります。
減価償却費固定資産となる建物の減価償却費は必要経費になります。
保険料火災保険、地震保険等を支払った場合は必要経費になります。(申告年度対応部分のみ)
税金不動産取得税、登録免許税は必要経費になります。
立退料土地建物の譲渡、取得以外で支払った立退料は必要経費になります。
修繕費建物や内装にかかった修繕費は必要経費になります。

修繕費については、資本的支出と判定される場合、必要経費になりませんので注意が必要です。

また、「事業的規模」の場合は、事業専従者給与(青色も白色も)が必要経費として認められます。さらに、「事業的規模」の場合、家賃滞納や夜逃げによる貸倒損失および個別評価債権に対する貸倒引当金の計上による必要経費算入が認められています。

 

 

 

消費税の還付について

マンションを買ったときなどは、建物部分に消費税が課税されますが(土地部分は非課税)、不動産賃貸収入は、消費税が非課税になります。

 

例えば3,080万円(建物1,080万円、土地2,000万円)のマンションを買ったとします。建物部分に消費税80万円が課税されているため、これを還付することが以前までは可能でした。

 

結論から言うと、個人事業主で投資用マンションを購入し、消費税の還付することは、おすすめできません。

 

 

これまでの消費税還付スキーム

平成22年度税制改正までは、投資マンションの建物部分消費税を還付するスキームがあり、これを使うことができました。いわゆる「自販機スキーム」と呼ばれる方法です。一時期は、この方法を用いた消費税還付が不動産業界でブームになりました。

 

 

自販機スキームの内容

マンションを購入すると建物部分に消費税が課税されます。マンションを貸し出すことで発生する家賃収入は消費税が非課税です。

 

消費税は受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて、その差額を納付する仕組みになっています。

 

売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務者となります(1,000万円未満は自動的に免税事業者になります)が、税務署に申告することで課税事業者(消費税の還付請求が可能)となることができます。

 

単純に税務署に申告して課税事業者となるだけでは、消費税は大きく還付されることはありません。消費税の還付額は『課税売上割合』に応じるためです。

 

『課税売上割合』とは課税売上(自動販売機の売上高)と非課税売上割合(家賃収入)の比率のことです。課税売上割合が大きいほど消費税の還付額が大きくなる仕組みです。

 

つまり、自動販売機を設置することで課税売上を発生させ、家賃収入を発生させないことで課税売上割合を100%にして支払った消費税を全額還付させるということです。

 

具体的には、年度末付近に物件を購入し、自販機を設置します。ドリンク1本でも売れれば課税売上が生じます。さらに物件を貸し出すのは翌年とすることで非課税売上は翌年発生とすることができます。これにより当年度は課税売上割合100%とすることができます。

 

詳細は割愛しますが、平成22年度の税制改正でこの方法は封じられてしまいました。課税当局も好ましいものと考えていないためです。

 

 

抜け道もあった

平成22年度の税制改正で『自販機スキーム』に一定の歯止めはかけられましたが、いくつも抜け道がありました。

 

その後平成28年度の税制改正で、これらの抜け道がふさがれました。まだ、抜け道はいくつか残されていますが、実行するにはかなりの労力と専門知識が必要になります。

 

 

税理士に依頼して、消費税還付方法を検討し、実行することは不可能ではありませんが、税務リスクが高いと考えられる(上記の通り、税務署が不動産投資家の消費税還付を快く思っていないことは明らかです)ため、相応の税理士報酬が発生します。

 

以上のことから、投資不動産の消費税還付は当サイトではおすすめしません。今後、税制改正でルールが変わるかもしれませんので、注視していきたいところです。