#2 一時的な節税対策

ichiji

恒久的な節税対策は支払う税金を減額する本質的な節税対策ですが、一方で一時的な節税対策を講じることも重要です。例えば、今年たまたま大きな収入があったものの、翌年は収入減少が見込まれる場合、一時的な節税対策を行い、今年の税金を減らし翌年以降の税金とすることを検討すべきです。トータルで納める税金が安くなるためです。

 

節税対策を大きく5つの体系(経費系、未払計上系、棚卸資産/固定資産系、債権/引当金系、所得控除系)に分けて解説します。

 

 

経費系

消耗品

≪方法≫

翌期使用する少額の消耗品をまとめて購入し、経費とする。

 

≪効果/注意事項≫

原則として、消耗品は使用したときに必要経費となりますが、例外として事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他は以下の要件に該当する場合、購入したその年の経費とすることができます。

 

① 毎月、おおむね一定数量を購入するものであること

 

② 毎年、経常的に購入するものであること

 

③ 会計処理方法を継続して適用していること

 

 

広告宣伝の実施

≪方法≫

翌期の売上につながるよう決算日前に広告宣伝を行います。

 

≪効果/注意事項≫

テレビ、新聞、業界紙、インターネット等で決算期内に放映、配布されればその期の経費とすることができます。

 

 

短期前払費用

≪方法≫

家賃や保険等を前払いし、その年の経費とする。

 

≪効果/注意事項≫

支払いから1年以内(*1)にサービスを受けるもので、契約に基づいた出金をする必要があります。従って契約が月払いであれば年払いに変更する必要があります。

 

一度採用すると継続して翌期も計上する必要があります。

 

等量・等質のサービスである必要があります。(家賃であればOK、税理士顧問料はNG(毎回内容が同一といえないため))

 

重要なもの、収入に直接結び付くようなものは計上できません。

 

(*1)

1年以内のため、例えば翌年1月から12月分の家賃を11月に前払いした場合、必要経費として計上はできません。この場合12月末までに支払うと契約すべきです。

 

 

 

未払計上系

未払計上(給与)

≪方法≫

支払いの確定している給与未払分を計上して経費とする

 

≪効果/注意事項≫

例えば、12月20日締め、1月払いの従業員給料があったとします。12月の給料は計上しますが、12月21日から31日までの給料も12月31日時点で支払いが確定しているため、その年の経費とすることができます。

 

給与に限らず、支払いは行っていないものの、見積書や注文書があり金額が確定していれば未払計上(必要経費計上)を行うことができます。

 

決算日を過ぎてしまっていても、計上することができます。

 

一度採用すると継続して翌期も計上する必要があります。

 

 

未払計上(決算賞与)

≪方法≫

決算前の急な節税対策として、未払決算賞与を計上して経費とする。

 

≪効果/注意事項≫

従業員がいないと使えません。

 

未払計上は以下の要件を満たす必要があります。

 

決算期末までに、同時期に支給を受ける全ての従業員に対して、その支給額を各人別に通知をしていること(賞与通知を交付して、その控えを取っておく必要があります)

 

通知をした金額を通知した全ての従業員に対し、その通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること(銀行振り込みであれば問題なく、現金払いの場合は受領書を従業員からもらっておく必要があります)

 

その支給額につき、通知をした日の属する事業年度において経費経理をしていること

 

通知から支給までの間に従業員が退職し、退職した従業員に賞与が支払われない場合、全額必要経費とならないので注意が必要です。

 

 

 

棚卸資産/固定資産系

棚卸資産評価損

≪方法≫

棚卸資産(材料や製品)の評価損を計上し、所得を圧縮します。

 

≪効果/注意事項≫

下記①~③の事由が生じた年の確定申告期限までに税務署に「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」を提出します。(低価法を選択)

 

棚卸資産の評価方法の届出ができるのは、①新たに事業を開始した場合、②従来の事業のほかに他の種類の事業を開始 した場合又は③事業の種類を変更した場合です。

 

以下のような場合、棚卸資産の評価損を計上することができます。
① いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。

 

② 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。

③ 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったこと。

 

建値の変更、過剰生産は評価損の計上要件となりませんので注意が必要です。

 

 

固定資産の修繕

≪方法≫

固定資産の修繕費を計上し、所得を圧縮します。

 

≪効果/注意事項≫

以下の要件を充たす修繕を行い、経費を計上します。

 

① 1回の支出が20万円未満

 

② 3年以内の周期で行われるもの(既往の実績やその他の事情から明らかであるもの)

 

③ 資本的支出か修繕費か不明なものは60万円未満、または、前年末の取得価額のおおむね10%相当額以下の場合は、修繕費になります

 

 

固定資産の除売却

≪方法≫

不要な固定資産(簿価のあるもの)を処分し、固定資産除却損あるいは売却損を計上して所得を圧縮します。

 

≪効果/注意事項≫

買い替えを行う場合は、中古の固定資産の引き取り額をあげてもらうより、新品の購入価額を値引きしてもらう方が税務上は有利です。(固定資産の売買は譲渡所得)

 

実際に固定資産を除却せず、有姿除却を行うことも可能ですが、有姿除却を行った場合、以後その固定資産を使用することはできません。使用すると除却損が否認されてしまいます。普通に見て、もう使えない状態でないと有姿除却はできません。

 

 

少額減価償却資産

≪方法≫

少額の固定資産を購入して、経費とする。

 

≪効果/注意事項≫

10万円未満のもの、あるいは使用可能期間が1年未満のものでデスクやパソコン等の固定資産を購入し、必要経費とすることができます。(1つ1つが10万円未満でもセットで10万円を超えるとNGです。例えば、パソコンとプリンター、ソファーテーブルセット等)

 

特例として青色申告者の場合、30万円未満のものであれば、その年の必要経費に合計で300万円まで算入することができます。

 

 

中古車の取得

≪方法≫

値下がりしにくい4年落ち中古車(ベンツ等)を取得し、減価償却費を計上し、所得を圧縮します。

 

≪効果/注意事項≫

4年落ち(厳密には新車登録から3年10か月経過した)中古車の耐用年数は2年のため、最初の1年間に全額必要経費(期の途中だと月割計算)に計上することができます。また、ベンツ等は値下がりしにくいため、償却終了後も資産価値が残ります。

 

ローンを組むことで支出を抑え、償却費を多く初年度に計上することができます。(例えば1,000万円の4年落ちベンツを5年ローン総額1,015万円で取得すると初年度は203万円の支払ですが、減価償却費(12か月分)は1,000万円計上することができます)

 

 

 

債権/引当金系

不良債権の処理

≪方法≫

利益の出ている年に回収見込みのない売掛金あるいは貸付金を貸倒処理し、特別損失を計上することができます。

 

≪効果/注意事項≫

売掛金の返済が滞って、取引を停止した相手が、1年以上弁済をしていない場合、事実上、回収不能と考え備忘価額を付して貸倒損失を計上することができます。(担保がある場合は除く)

 

 

貸倒引当金計上

≪方法≫

青色申告をする。

 

≪効果/注意事項≫

青色申告の事業所得者で、事業で生じた売掛金、未収入金、貸付金などの貸倒れによる損失の見込額として、年末における帳簿価額の合計額の5.5%以下(金融業の場合は 3.3%)の金額を貸倒引当金勘定へ繰り入れたときは、その金額が必要経費として認められます。

 

個人的な貸付金、預け金、敷金、前渡金、手付金、立替金などは事業から直接生じた債権ではないため貸倒引当金の対象にはなりません。

 

翌年度、貸倒引当金は戻し入れて収入に計上する必要があります。

 

 

 

所得控除系

経営セーフティ共済

≪方法≫

経営セーフティ共済に加入して所得控除をうける

 

≪効果/注意事項≫

個人事業主と小規模な企業の経営者が加入できる共済。毎月最大20万円の掛け金で全額必要経費(ただし、事業所得のみ。不動産所得等は必要経費算入が認められない)また、前納分(*1)もその年の所得控除の対象となる。(480万円=20万円×12ヶ月×2年)11月中に手続きが必要です。

 

解約返戻金に税務上の恩典がないため、解約時期を選ばないと大きく課税される。

 

個人事業主で加入と同時に会社でも加入できます。

 

必要経費として算入するには、任意の用紙で様式例『中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書』を作成し、確定申告書に添付する必要がある。

 

(*1)

前納の手続きは、支払い月の前月までに終えておく必要があります。正確には支払いをする月の5日まで制度を運営している中小機構に書類が届けばいいことになっています。