#1 事業所得その1

#1 事業所得その1

#1 事業所得その1では、事業所得とは何か、事業所得の計算方法のうち≪総収入金額に含めるべきもの≫、≪収入の計上時期≫、≪通常販売価額よりも低い価額での販売について(低額譲渡)≫、事業所得と雑所得の違いについて、記載します。

 

#2 事業所得その2では、事業所得の計算方法のうち≪必要経費≫について、記載します。

事業所得とは?

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人の所得をいいます。
ただし、 不動産の貸付けによる所得は原則として不動産所得、山林の譲渡による所得は原則として山林所得になります。

 

 

事業所得の計算方法

事業所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて、計算します。また、青色申告の要件を満たしていれば、さらに青色申告特別控除額を差し引くことができます。

事業所得 = 総収入金額 - 必要経費 - 青色申告特別控除(※)

(※)差し引くことができるのは、青色申告の要件を満たしている青色申告者だけです。

 

 

総収入金額に含めるべきもの

 総収入金額には、それぞれの事業から生ずる売上金額のほかに、次のようなものも含まれます。

収入の内容収入金額
1.金銭ではなく物や権利などを受け取った場合受け取った時の物や権利などの時価
2.商品を自家用に消費したり贈与した場合仕入価額と通常販売価額70%うち、いずれか大きい金額
3.商品などについて損失を受けたことにより、支払いを受ける保険金や損害賠償金等受け取った金額
4.空箱や作業くずなど事業付随の収入
受け取った金額
5.仕入割引やリベート収入受け取った金額

 

 

収入の計上時期

収入として計上する時期について注意が必要です。

取引の結果、代金としてお金を貰えば当然収入に計上する必要がありますが、お金を貰っていなくても収入に計上しなければならない時もあります。税法では、「収入すべき権利の確定した日」に収入を計上する必要があると定めています。つまり、請求書をまだおくっていなくても、代金を貰っていなくても収入すべき権利が確定していれば、収入を計上する必要があります。

 

例えば、機械の販売業者が12月にお客から注文を受けて、その日のうちにお客に機械を届けて備え付けを完了し、お客の検収までもらえたとします。この場合、お客からの支払いが年明け1月であったとしても、また、代金請求をまだしていなくても、12月の収入に計上する必要があります。まだお金はもらっていなくても、お金を貰う権利が確定したと考えられるためです。

 

収入すべき時期をいつとするかは、それぞれの取引の内容、性質、契約の取決め、慣習などによって判定します。国税庁ホームページに事業所得をはじめ、様々な所得の収入時期について記載されていますので参照してください。画一的に決まるものもあれば、事業者が選択して適用できるものもあります。ポイントは、自分の収入すべき時期を決定したら、毎年継続してその方法を適用することです。毎年自分の都合で変更することはできませんのでご留意ください。

 

 

通常販売価額よりも低い価額での販売について(低額譲渡)

事業を行っていると、時に通常販売価額よりも安い価額で、販売することがあります。このような場合、注意すべきことがあります。

 

税法では、通常販売価額の70%未満で販売しても、最低でも通常販売価額の70%で収入計上する必要があります。ただし、①型崩れなどによる値引き販売、②広告宣伝の一環として行う値引き販売(バーゲンセール)、③金融上の換金処分のいずれかに該当する場合は、通常販売価額の70%で収入計上する必要はなく、販売した価額で収入計上できます。①~③に該当する場合は安く売って当たり前と考えられるためです。

 

なお、通常販売価額の70%未満で販売することを、「低額譲渡」と言います。

 

 

事業所得と雑所得の違い

雑所得とは、どの所得区分にも属さない所得のことです。会社員が副業を行っている場合などに事業所得となるのか雑所得となるのかが問題となることがあります。

 

理解を深めるために少し踏み込んで、何を事業所得と定義するのかについての判例がありますので確認してみましょう。

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断する。

少し難しいですが、ポイントは営利性のある仕事を反復継続的に行っていることです。雑所得に分類されるよりは、事業所得に分類されたほうが、損益通算や青色申告特別控除といったメリットがあるため有利です。

 

本業(会社員)の他にFX、株式取引、物品販売などを副業で行っている場合、副業から生じた損失を損益通算することは、様々な過去の事例から判断すると、難しいようです。事業として行っているというよりは、投機的な利ざやを稼ぐためと税務署に判断されるためです。税務署は社会通念を非常に重視します。事業所得となるのか雑所得となるのかは、ケースバイケースで、税務の世界でもグレーな部分です。そのため、副業を事業所得として申告しようとする場合は、事前に税務署に相談してみるとよいでしょう。

#2 事業所得その2

#2 事業所得その2

節税や税務調査でポイントとなるのは、総収入金額でも青色申告特別控除額でもなく、必要経費です。収入の場合、≪総収入金額に含めるべきもの≫であるのに対して、経費の場合≪必要経費に含めることができるもの≫になっています。税務署からしてみれば、所得が増えれば税金も増えるため、なるべく収入は多く、経費は少なくなるようにしたいわけです。節税をするためには、反対になるべく収入を少なく、経費は多くなるようにする必要があります。

必要経費に含めることができるもの

必要経費に含めることができるのは、収入に対応する売上原価と販売費及び一般管理費です。

必要経費 = 売上原価 + 販売費及び一般管理費

 

 

売上原価とは?

原価率という言葉を耳にすることがありますが、原価率は売上原価を売上高(収入)で割ることで求めることができます。例えば80円で仕入れたものを100円で販売している場合、原価率は80%になります。必要経費に含めることができる売上原価は、年間の合計ですので、当期首(1月1日)の棚卸資産(仕入れた在庫等の金額合計)に当期(1月1日~12月31日)の仕入高を足して、当期末(12月31日)の棚卸資産残高(売れ残った在庫等の合計金額)を差し引くことで計算します。

売上原価 = 当期首棚卸資産残高 + 当期仕入高 - 当期末棚卸資産残高

当期末棚卸資産残高は、翌年の「当期首棚卸資産残高」になります。

なお、棚卸資産には原材料、仕掛品、半製品、製品、商品など事業に係るものが該当します。

 

 

棚卸資産の評価方法を選択しよう

在庫(棚卸資産)を持つビジネスの場合、その評価方法を選択することができます。

評価を選択するためには、あらかじめ税務署へ「棚卸資産の評価方法の届出書」(詳細は節税対策に記載します)を3月15日までに提出する必要があります。この届出書を提出しないと、評価方法は「最終仕入原価法」で評価することになります。

 

 

具体的な棚卸資産の評価方法

青色申告者には、「低価法」の採用が認められています。

「低価法」とは、「原価法」で評価した金額と12月31日時点の時価を比較していずれか低いほうを棚卸資産の金額とすることができる方法です。従って、棚卸資産の評価を下げることができる(=売上原価を大きくすることができる)ため、「原価法」よりも必ず有利になります。青色申告者は「低価法」を採用することをおすすめいたします。

 

「原価法」には、6種類計算方法があります。上記の届け出を行わない場合は、「最終仕入原価法」で評価することになります。「最終仕入原価法」は、その年の一番最後に買ったものの値段で、12月31日時点のすべての棚卸資産を評価する方法です。そのため、1月に1個で1,000円で買ったものが、12月31日に値上がりして1個1,200円になった場合は年末に保有する期末棚卸資産の評価額はすべて、単価1,200円で計算されることになります。

 

 

販売費及び一般管理費(販管費)とは?

売上原価は、収入に直接ひもづけることができますが、例えば事務所で使う消耗品や電気代などは直接収入にひもづけることができません。そのため、年間に発生した金額で販売費及び一般管理費として、必要経費に含めることができます。販売費及び一般管理費には以下のような費用が含まれます。種類が多いため、すべてを紹介することはできませんが、仕事のために使った費用は原則必要経費になると覚えておけば十分です。

 

具体例

販管費の勘定科目名とどのような経費が分類されるのか具体的に見てみましょう。

勘定科目名内容
1.消耗品費事務用品や10万円未満の備品など
(10万円未満の備品とはデスク、本棚、パソコン等のオフィス周り用品です)
2.地代家賃仕事に使うオフィス、店舗、駐車場などの費用
3.水道光熱費電気、ガス、水道代など
4.旅費交通費移動するために使用した電車や新幹線、バス、タクシー代など
5.接待交際費取引先に対する接待、慶弔見舞、その他交際費など
6.通信費固定電話、携帯電話、インターネット、切手、はがき代など
7.給料賃金雇用している従業員に対する給与、アルバイト代などの人件費

実際には、どの勘定科目に分類すべきか迷うものが上記の表以外にもたくさんあります。その都度インターネットで「経費名+勘定科目」で検索すれば、ほとんどのものはわかります。

 

 

 

必要経費の計上時期

収入と同様に、経費も計上する時期について注意が必要です。

実際にお金を支払ったタイミングではなく、その年に支払うべき債務が確定したときに必要経費を計上します。支払うべき債務が確定する時期は以下の要件を満たしたときになります。

1.その年に債務が成立していること
2.物を受け取ったり、サービスをすでに受けていること
3.その年に金額が合理的に算出できること

 

債務が成立

債務が成立するとは契約がなされていることをいいます。「この商品をください」と注文して、「わかりました、送ります」と承諾されれば契約が成立し、商品を買う人に債務が成立します。契約は書面になっていなくても、口頭の電話やメールでも成立します。

 

 

物やサービス提供済み

「この商品をください」と注文をして、実際に物が手元に届いている必要があります。通販サイトで物を注文して、発送されたとしても物が届いていない場合は該当しません。

 

 

金額がわかる

金額がいくらかわからない場合、債務は確定しません。実際には、あまりないかもしれませんが、どうしてもその商品やサービスが必要で、金額の取り決めを後回しにしたような場合、金額が未確定となることもあります。

#3 不動産所得

#3 不動産所得

不動産所得とは、不動産の(土地、建物および地上権などの権利含む)所有者が、その不動産を貸して得た所得のことをいいます。

不動産の貸付収入がある場合、まず、その収入が不動産所得に該当するのかを判定する必要があります。少し細かいですが、難しくないので順番にみていきましょう。

不動産所得の判定

不動産を持っている人が、その不動産を人に貸して、収入があれば全て不動産収入になるわけではありません。

例えば、ホテルのような不動産に人が付随するようなサービスや事業に付随するようなサービスは事業所得雑所得に分類される場合があります。不動産の貸付の形態により判断する必要がありますので、下の具体例を参考にしてください。

 

具体例

貸付形態別の所得区分判定は以下の通りです。

ポイントは不動産に付随したサービスを行っているか否かです。

不動産所得に該当事業所得、雑所得に該当
・マンション、アパート等の家賃収入
・借地権等の貸付による収入
・建物に広告等を出させて得る収入
・ホテル事業の収入
・食事提供のある下宿
・保管責任を伴う時間極駐車場、駐輪場

 

 

不動産所得が事業的規模か

不動産所得は、「事業的規模」か「業務的規模」(事業的規模よりも小規模)のいずれに該当するかによって、青色申告特別控除、事業専従者給与そして資産損失の取り扱いが異なります。「事業的規模」に該当すると、税務上有利な扱いとなります。

 

「事業的規模」の判定方法

事業的規模と判定されるためには、以下の基準に該当する必要があります。


①マンション、アパート等の場合、貸している室数が10室以上

②戸建て貸家の場合、貸している家が5棟以上

③駐車場等の土地の貸付の場合、貸している件数が50件以上

例えば、戸建てを1棟、マンションを2室、駐車場を15件貸し付けていたとします。この場合、上記基準のいずれにもあてはまりませんが、合計(戸建1棟=5室換算、駐車場15件=3室換算)で10室となるため、事業的規模に該当します。戸建、マンション等、駐車場は1:2:10の割合と覚えておくとよいでしょう。

 

 

不動産所得の計算方法

不動産所得は、事業所得と同様に総収入金額から必要経費を差し引いて、計算します。また、青色申告の要件を満たしていれば、さらに青色申告特別控除額を差し引くことができます。

不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費 - 青色申告特別控除(※)

(※)差し引くことができるのは、青色申告の要件を満たしている青色申告者だけです。事業的規模に該当すれば、65万円の特別控除、業務的規模であれば10万円の特別控除になります。

 

 

総収入金額に含めるべきもの

総収入金額には、不動産の貸付による収入のほか、次のようなものも含まれます。

収入の内容
共益費として受け取った収入(水道光熱費、掃除代等)
返還しない敷金や保証金
更新料、名義書き換え料等

 

 

収入の計上時期

賃貸料収入は、原則として契約により支払日が決まっていれば、支払日に計上します。例えば、翌年1月の家賃を当年12月に支払う契約になっていれば、当年の収入となります。例外として、継続的に「前受収益」、「未収収益」の経理をしている場合、その期間に対応した賃貸料収入の計上が認められています。賃貸料収入のうち、支払日が定められていない場合は、支払いがなされた日に収入計上します。

 

更新料等などで資産の引渡しをしないものについては、契約の効力発生日に収入に計上します。また、返還不要の敷金については、返還しないことが確定した日に収入に計上します。

 

 

 

必要経費に含めることができるもの

不動産所得の必要経費となるものは、次のような費用です。

内容説明および注意事項
借入金の利子不動産取得のために借入を行った場合、その利子は必要経費になります。
減価償却費固定資産となる建物の減価償却費は必要経費になります。
保険料火災保険、地震保険等を支払った場合は必要経費になります。(申告年度対応部分のみ)
税金不動産取得税、登録免許税は必要経費になります。
立退料土地建物の譲渡、取得以外で支払った立退料は必要経費になります。
修繕費建物や内装にかかった修繕費は必要経費になります。

修繕費については、資本的支出と判定される場合、必要経費になりませんので注意が必要です。

また、「事業的規模」の場合は、事業専従者給与(青色も白色も)が必要経費として認められます。さらに、「事業的規模」の場合、家賃滞納や夜逃げによる貸倒損失および個別評価債権に対する貸倒引当金の計上による必要経費算入が認められています。

 

 

 

消費税の還付について

マンションを買ったときなどは、建物部分に消費税が課税されますが(土地部分は非課税)、不動産賃貸収入は、消費税が非課税になります。

 

例えば3,080万円(建物1,080万円、土地2,000万円)のマンションを買ったとします。建物部分に消費税80万円が課税されているため、これを還付することが以前までは可能でした。

 

結論から言うと、個人事業主で投資用マンションを購入し、消費税の還付することは、おすすめできません。

 

 

これまでの消費税還付スキーム

平成22年度税制改正までは、投資マンションの建物部分消費税を還付するスキームがあり、これを使うことができました。いわゆる「自販機スキーム」と呼ばれる方法です。一時期は、この方法を用いた消費税還付が不動産業界でブームになりました。

 

 

自販機スキームの内容

マンションを購入すると建物部分に消費税が課税されます。マンションを貸し出すことで発生する家賃収入は消費税が非課税です。

 

消費税は受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて、その差額を納付する仕組みになっています。

 

売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務者となります(1,000万円未満は自動的に免税事業者になります)が、税務署に申告することで課税事業者(消費税の還付請求が可能)となることができます。

 

単純に税務署に申告して課税事業者となるだけでは、消費税は大きく還付されることはありません。消費税の還付額は『課税売上割合』に応じるためです。

 

『課税売上割合』とは課税売上(自動販売機の売上高)と非課税売上割合(家賃収入)の比率のことです。課税売上割合が大きいほど消費税の還付額が大きくなる仕組みです。

 

つまり、自動販売機を設置することで課税売上を発生させ、家賃収入を発生させないことで課税売上割合を100%にして支払った消費税を全額還付させるということです。

 

具体的には、年度末付近に物件を購入し、自販機を設置します。ドリンク1本でも売れれば課税売上が生じます。さらに物件を貸し出すのは翌年とすることで非課税売上は翌年発生とすることができます。これにより当年度は課税売上割合100%とすることができます。

 

詳細は割愛しますが、平成22年度の税制改正でこの方法は封じられてしまいました。課税当局も好ましいものと考えていないためです。

 

 

抜け道もあった

平成22年度の税制改正で『自販機スキーム』に一定の歯止めはかけられましたが、いくつも抜け道がありました。

 

その後平成28年度の税制改正で、これらの抜け道がふさがれました。まだ、抜け道はいくつか残されていますが、実行するにはかなりの労力と専門知識が必要になります。

 

 

税理士に依頼して、消費税還付方法を検討し、実行することは不可能ではありませんが、税務リスクが高いと考えられる(上記の通り、税務署が不動産投資家の消費税還付を快く思っていないことは明らかです)ため、相応の税理士報酬が発生します。

 

以上のことから、投資不動産の消費税還付は当サイトではおすすめしません。今後、税制改正でルールが変わるかもしれませんので、注視していきたいところです。

#4 給与所得

#4 給与所得

10種の所得の中でも、なじみの深い給与所得ですが、改めて確認してみましょう。パートやアルバイトをするときに注意すべき、103万円の壁130万円の壁、そして新設される106万円の壁についても解説しています。

給与所得とは?

給与所得とは、役員、従業員、パートおよびアルバイト等が勤務先から受け取る給料や賞与のことです。勤務先からお金を貰えば、原則、給与所得となりますが、交通費などは給与には含まれません。

 

 

給与所得の計算方法

給与所得は、収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算します。

給与所得 = 収入金額 - 給与所得控除額

一般的にいう「年収」とは、収入金額(総支給額であり、毎月の給与に賞与を含めた金額)を指します。

 

 

収入金額に含めるべきもの

毎月の給料、残業代や賞与の他に交通費等が、勤務先から支給されることがあります。そのうち収入金額に含めるべきものは次の通りです。

項目判定
通勤手当通勤のために支給される手当は月10万円まで非課税です。(10万円を超えると給与とされます)
宿泊日当、宿直料、日直料社会通念上相当と認められる金額であれば非課税です。(あまりに高いと給与とされます)
社宅、寮費使用人から一定額以上の家賃を受け取っていれば非課税です。(一定額未満の場合、給与とされます)
家族手当、住宅手当等給与として課税されます

そのほか、商品の大幅な値引き販売や、無償の土地建物の借り受け、豪華な食事の提供などの経済的利益の供与は、給与とみなされます。

 

 

給与所得控除額

個人事業主であれば、収入から必要経費を差し引くことができますが、給与所得者は収入から必要経費を差し引くことはできません。しかし、会社員でも給与をもらうために鞄、スーツ等をそろえる必要があり経費がかかります。そこで、給与所得者には、必要経費を概算で一律に計算する給与所得控除が認められています。

給与所得控除額は収入金額に応じて、以下の計算式で求めることができます。

収入金額給与所得控除額
180万円以下収入金額 × 40%(65万円未満の場合は収入金額)
180万円超~360万円以下収入金額 × 30% + 18万円
360万円超~660万円以下収入金額 × 20% + 54万円
660万円超~1,000円以下収入金額 × 10% + 120万円
1,000万円超~1,200万円以下収入金額 × 5% + 170万円
1,200万円超230万円

 

 

特定支出控除の特例

給与所得者は、収入金額から給与所得控除額しか差し引くことができないのが原則ですが、多額の支出をした場合には収入金額から控除することが認められています。転居やその他勤務に必要な経費で、支出金額の合計が給与所得控除額の2分の1を超える場合に適用されます。使う機会は少ないと思いますが、該当しそうな場合は国税庁ホームページで詳細を確認してみてください。

 

 

 

103万円、106万円、130万円の壁とは?

アルバイトやパートなどで、よく103万円、130万円を超えない範囲でやったほうが得だと耳にしたことがあるかもしれません。学生アルバイトの方や主婦のパートの方はこの金額を意識しておかないと、思わぬ出費になりかねませんので注意が必要です。103万円の壁と130万円の壁がそれぞれどんなものなのか少し詳しく解説します。

 

 

103万円の壁

上記、給与所得控除額の表を改めて確認すると、65万円までは全額給与所得控除される(=税金0円)ことがわかります。この65万円に加えて、納税者一人一人に基礎控除38万円があります。そのためアルバイト・パート収入が103万円の場合、収入103万円―65万円(給与所得控除)-38万円=0円となり、税金がかかりません。(なお、100万円を超えると住民税がかかってきます)

 

103万円を超えるとアルバイト・パートをしている本人に103万円を超える部分に税金がかかってきます。(おおよそ10%程度です)また、主婦であれば給与が103万円を超えると、ご主人は配偶者控除を使えません(141万円までは配偶者特別控除の対象)ので税金が増えます。学生で扶養家族になっている場合も、扶養控除から外れますのでやはり税金が増えます。

 

 

130万円の壁

主婦のパートの方で、ご主人が社会保険に加入している会社員の場合、130万円の壁が問題となります。社会保険に被扶養者として加入できるため、主婦は健康保険や国民年金を支払う必要がありませんが、130万円を超えると、社会保険の扶養から外れてしまうため、国民健康保険料や国民年金を支払う必要があります。この負担が大きく、130万円の壁は103万円の壁よりも重要です。

 

 

106万円の壁(2016年10月より)

なお、2016年10月より社会保険適用範囲が拡大され、大企業(従業員501人以上)で働く一部のパートは、社会保険への加入が必要となる。要件は5つ(下記①~⑤参照)あり、そのうちのひとつが年収106万円となっています。その他の要件についても、容易に満たしてしまうハードルの低いものになっているため、注意が必要です。

 


要件① 週20時間以上

要件② 月額賃金8.8万円以上(年間106万円以上)

要件③ 勤務期間1年以上見込み

要件④ 学生は適用除外

要件⑤ 従業員501人以上の企業

#5 雑所得

#5 雑所得

雑所得とは、他の9種類のどの所得にも該当しない所得をいいます。代表的なものに、公的年金等、職業作家以外の方が受け取る原稿料、印税、講演料等があります。また、外国為替証拠金取引(FX取引)や先物取引の所得も、雑所得として扱われます。

雑所得の代表的な例示

他の所得に該当しない様々な所得が雑所得に分類されます。代表的な公的年金等と公的年金等以外のもの、先物取引(FX取引)について、順番に解説します。

 

 

公的年金等(総合課税)

国民年金、厚生年金、共済年金等の年金、確定拠出型年金(401K)の老齢給付金(401Kは一時金として受け取ると退職所得になります)、外国法令に基づいた社会保険等に類する年金が該当します。

 

公的年金等の確定申告不要制度

その年の公的年金等の金額が400万円以下、かつ、その年に公的年金等以外の所得が20万円以下の場合、確定申告は不要となっています。

なお、その年の医療費が多い場合は、医療費控除を利用して還付を受けたほうが得をする場合があります。そのような場合は、確定申告をすることもできます。

 

 

公的年金等以外(総合課税)

公的年金等以外に分類されるものとして、事業として行っていない場合の金銭の貸付による利子収入、職業作家以外が受け取る原稿料、作曲料、デザイン料その他の収入、そして生命保険等の個人年金などが公的年金等以外として雑所得になります。

 

 

先物取引、FX取引(申告分離課税)

公的年金等と公的年金等以外にも雑所得に分類されるものとして、商品先物取引や外国為替証拠金取引(いわゆるFX取引)があります。これらは、公的年金等と公的年金等以外が総合課税とされるのに対し、申告分離課税とされます。

 

 

 

雑所得の計算方法(公的年金等、公的年金等以外)

雑所得の計算は公的年金等、公的年金等以外、先物取引等に分類され、それぞれ計算方法がことなります。計算は難しくないので、順番に確認しましょう。

 

 

公的年金等の計算方法

公的年金等は収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算します。なお、遺族年金や恩給

は非課税ですので、収入金額に含める必要はありません。

公的年金等の雑所得金額 = 収入金額 - 公的年金等控除額

その年の収入金額に含める年金は、その支給日で判断します。計算は年齢と収入金額でことなります、下の表を参考にしてください。なお、年齢は12月31日時点で判定します。

 

65歳未満の方

(a)公的年金等の収入金額雑所得の金額
70万円までは所得金額はゼロ0円
70万円超~130万円未満(a)×100%-70万円
130万円以上~から410万円未満(a)×75%-37.5万円
410万円以上~770万円未満(a)×85%-78.5万円
770万円以上(a)×95%-155.5万円

 

65歳以上の方

(a)公的年金等の収入金額雑所得の金額
120万円までは所得金額はゼロ0円
120万円超~330万円未満(a)×100%-120万円
330万円以上~410万円未満(a)×75%-37.5万円
410万円以上~770万円未満(a)×85%-78.5万円
770万円以上(a)×95%-155.5万円

 

 

公的年金等以外の計算方法

公的年金等以外の雑所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。

個人年金の受給がある場合、必要経費の算出方法が少し特殊です。

個人年金の必要経費 = 源泉徴収前の年金合計 × (払込保険料合計 ÷ 年金の総支給見込額)

年金受給の際には、保険会社から書面で必要経費の金額が記載された書面が送付されてきますので、計算式を覚える必要はありません。

 

なお、年金から必要経費を差し引いた金額が25万円以上となる場合は、10.21%源泉徴収されます。

 

 

 

雑所得の計算方法(公的年金等、公的年金等以外)

先物取引等の計算方法

先物取引等の雑所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。

公的年金等の雑所得金額 = 総収入金額 - 必要経費

総収入金額

先物取引は、反対売買の差金決済がなされるため、総収入金額は差金決済額となります。なお、スワップポイントも含まれます。

 

必要経費

先物取引の必要経費として、売買手数料のほかに、取引をするために直接要したパソコン購入費、プロバイダー費用、セミナー参加料なども含めることができます。

 

税率について

先物取引等の雑所得は、分離課税です。そのため、他の所得とは区分され、税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%(15%×2.1%)+住民税5%)で課税されます。

 

損益通算について

先物取引等から生じた損失は、他の所得の金額と損益通算することができません。ただし、同じ先物取引等から生じた利益と損益通算することはできます。例えばFX取引から損失が生じていても、商品先物取引から利益が出ていれば、これを相殺(損益通算)することができます。

 

損失の繰越について

損益通算しきれなかった、損失は翌年以後3年間繰り越すことができます。翌年利益が生じれば、当年の損失を翌年の利益から差し引くことができるため、利益が出ていなくても確定申告をしておくとよいでしょう。具体的には以下を確認してください。

 

①先物取引の損失について、「申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)」及び「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出する。

②その後も「申告書付表」を添付した確定申告書を提出する。

③繰越控除を受ける場合、「申告書付表」及び「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出する。

 

#6 一時所得

#6 一時所得

一時所得とは、営利目的の継続的行為や労務提供、あるいは資産の譲渡以外から生じた所得で、臨時的な性質の所得です。抽象的でわかりにくいかもしれませんが、具体例を参照していただければ、特徴がわかります。

一時所得に含まれるものの具体例

賞金や福引等の賞金品

賞金品は一時所得となりますが、「宝くじ」や「TOTO」は非課税のため一時所得に含まれません。従って、当選しても確定申告の必要はありません。また、業務に関連して受けるものは一時所得に含まれません。

 

 

競馬、競艇、競輪の払戻金

競馬、競艇、競輪等の当選金は一時所得になります。

最近(平成27年3月)の最高裁判例で、本来一時所得となる馬券の当選金を、雑所得として認定した事件がありました。一時所得の場合、当選金収入から差し引くことができるのは、そのレースの馬券代だけですが、雑所得の場合、はずれ馬券が全て必要経費となります。大きな違いがあり、世間の耳目を集めたニュースとなりました。このようなケースはまれだと思いますが、紹介します。

 

<事案の概要>

Aは馬券を自動購入できるソフトを使用して、インターネットから長期間(多数回、頻繁)網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ていた。Aはその所得を正当な理由なく確定申告書を期限までに提出しなかったという所得税法違反の事案であり、当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得に当たるか雑所得に当たるか、外れ馬券の購入代金が所得税法上の必要経費に当たるか否かが争点となった事案。

 

<判決の概要>

~(略)以上によれば,被告人が馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ,一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの本件事実関係の下では,払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は 正当である。

 

~(略)以上によれば,外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金という費用が当たり馬券の 払戻金という収入に対応するなどの本件事実関係の下では,外れ馬券の購入代金に ついて当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができる とした原判断は正当である。

 

 

生命保険の一時金、損害保険の満期返戻金

満期保険金等を一時に受け取った場合、一時所得となります。(年金で受領した場合、公的年金等以外の雑所得になります)保険料を負担していた人以外の人(配偶者等)が保険金を受け取った場合、贈与税が課税されます。なお、死亡保険金は別途定めがあります。

 

 

一時所得の計算方法

一時所得は、総収入金額から収入を得るために支出した金額を、差し引いて計算します。

一時所得 = 総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額

上記計算を行って一時所得を算出しますが、他の所得と合算する前に一時所得の金額は2分の1にされます。少しわかりにくいため、所得税の計算体系を参照してください。

 

 

総収入金額に含めるべきもの

総収入金額には、現金以外にも、商品券等の経済的な便益も含みます。商品券の場合は、額面金額で総収入金額に含めてください。金券以外の物でもらった場合は、その物の時価で総収入金額に含めます。

 

 

収入を得るために支出した金額に含めることができるもの

収入が発生する直接の原因となる支出を、収入を得るために支出した金額に含めることができます。満期保険金の一時金受取の場合、それまで支払った保険料等の総額を差し引くことができます。満期一時金受取の場合、保険会社から計算書が送付されてきますので、その計算書に沿った記載・申告を行えば問題ありません。

 

 

特別控除額

一時所得は50万円まで特別控除を行うことができます。総収入金額から収入を得るために支出した金額を差し引いた残額が50万円未満の場合、特別控除を行うことができる金額は、その金額になります。

 

 

#7 譲渡所得その1

#7 譲渡所得その1

譲渡所得とは、保有する資産を譲り渡したときに生じる所得をいいます。10種の所得の中でも少し複雑な所得になっています。#7譲渡所得その1では、譲渡所得の分類とすべての譲渡所得に共通するルール、そして総合課税される譲渡所得を解説します。

#8譲渡所得その2では、分離課税される不動産の譲渡所得を解説します。

#9譲渡所得その3では、分離課税される有価証券の譲渡所得を解説します。

譲渡所得の分類

資産を譲渡したときは、資産の種類によって税金の計算方法がことなるため、まず、どの分類に該当するのかを検討する必要があります。

 

分類方法

下の譲渡した資産の種類別分類表を参照してください。

譲渡所得分類表

資産の保有期間に応じて所得分類が長期と短期に別れます。税金の計算上は長期が有利となっています。

 

所有期間の判定は、譲渡した年の1月1日時点で、所有期間が5年超か5年以下かで判定する点に注意が必要です。

 

 

譲渡所得にならない資産

次のような資産は、譲渡しても譲渡所得にならず他の所得になりますので注意が必要です。

資産の名称説明所得分類
棚卸資産事業を行っている方が保有する資産で販売するためのものを譲渡した場合は譲渡所得になりません。事業所得
売掛金、貸付金売掛金や貸付金といった金銭債権を譲渡により生じた所得は、譲渡所得になりません。事業所得又は雑所得
少額減価償却資産使用可能期間が1年未満または取得価額10万円未満の減価償却資産の譲渡により生じた所得は、譲渡所得になりません。事業所得又は雑所得
一括償却資産取得価額が20万円未満で、取得の時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたものの譲渡により生じた所得は、譲渡所得になりません。事業所得又は雑所得

 

 

譲渡所得になるが非課税とされる資産

次のような資産は、譲渡所得になりますが、課税されない非課税所得になります。

資産の名称説明
生活用動産家具や通勤用自動車、衣服、パソコン、応接セットなどの生活に通常必要と考えられる資産を譲渡しても課税されません。ただし、1個(又は1組)30万円を超える貴金属などの譲渡は課税されます。
強制換価手続による競売担保権を行使され資産が競売にかけられたり、強制執行を受けたときは資産を譲渡しても課税されません。
また、上記のような強制換価が避けられない場合で代金全額を債務の弁済にあてた時も課税されません。
公社債等公社債、公社債投資信託および貸付信託の受益権は課税されません。
寄付国や地方公共団体等に財産を寄附した場合は課税されません。
重要文化財等国や地方公共団体等に重要文化財を譲渡した場合は課税されません。
相続資産相続税の物納に充てた場合は、課税されません。
ただし、許可限度額を超えると、超えた部分に課税されます。

注目は、節税対策に使える生活に必要な動産です。もし、会社のオーナーであれば、個人から会社へパソコンや自動車を譲渡し、所得が発生しても個人側では非課税です。会社側では時価で譲渡された資産を計上する必要がありますが、譲り受けた資産を一括で損金あるいは減価償却を通じて損金に算入することができます。

 

 

譲渡があったとみなされる行為(みなし譲渡)

譲渡の範囲は広く、交換、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます。さらに以下のような場合にも譲渡があったものとみなされます。

みなし譲渡とされるケース説明
法人への資産贈与以下のような場合、時価(通常の売価)で資産の譲渡があったものとされます。
・法人への資産贈与
・法人への時価の2分の1未満での譲渡
限定承認による相続や包括遺贈限定承認相続、限定承認包括遺贈がなされた場合、時価で資産の譲渡があったものとされます。
国外転出1億円以上の有価証券等を所有している方が国外転出等をする場合、国外転出の時点で譲渡があったものとされます。
地上権や賃借権、地役権の設定による権利金地上権等の設定により受けとる権利金についても、その金額が借地権の設定された土地の時価の2分の1を超える場合には、資産の譲渡があったものとされます。
資産の消滅による補償金収用等により、借地権、漁業権が消滅したり、その価値が減少することにより一時に補償金などを受け取ったときは、資産の譲渡があったものとされます。

上記は、実際に資産の譲渡が行われていなくても、譲渡されたとみなされ、課税されるので注意が必要です。

 

 

譲渡所得の共通ルール

収入の計上時期

譲渡所得の収入の計上時期は、資産の引渡しがあった日です。また、資産の譲渡契約の効力発生日に計上することも認められています。

 

 

資産を取得した日

譲渡所得の分類方法で確認した通り、長期間保有(取得から譲渡までの期間)した資産の譲渡は、税金の計算上有利となります。譲渡日はわかりやすいのですが、取得日は一部特有のルール(下記4~6)があるため注意が必要です。

資産の取得方法取得日
1.他人(含む法人)から購入した資産引き渡しがあった日、契約の効力が発生した日
2.自分で建設、制作、製造した資産建設等が完了した日
3.他人(含む法人)に建設、制作、製造してもらった資産資産の引き渡しがあった日
4.贈与された資産贈与者が取得した日
5.相続した資産(限定承認除く)被相続者が取得した日
6.交換等により取得した資産交換や買換えの特例適用対象となった旧資産を取得した日

 

 

取得費

取得費とは、資産を取得するための支出のことで、譲渡収入から差し引くことができます。

 

土地や建物の取得費

取得費には、土地や建物の購入および建築代金、購入仲介手数料のほか登録免許税、造成費用、立退き料、測量費用、設備費や改良費も含めた合計金額です。

事業所得などの計算上、すでに必要経費に算入されているものは取得費から除かれます。例えば、減価償却資産である建物の場合、取得費から減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費となります。

 

 

取得費がわからない場合

長期間の保有(おじいさんの時代から保有しているなど)となると、当初の取得にかかった金額の記録が残っていないこともあります。その場合、概算で取得費を計算することが認められています。

取得費の概算金額 = 譲渡した金額 × 5%

なお、実際の取得費が譲渡した金額の5%を下回っている場合、実際の取得費を用いずに概算金額を用いることができます。

 

 

贈与により取得した場合

贈与により資産を取得した場合の取得費は、贈与者の取得価額が取得費となります。例えば、親から贈与された土地を売却する場合、親が土地を取得するために支払った金額が、取得費になります。(親が土地を取得した時期も引き継がれます)

 

 

相続により取得した場合

相続により資産を取得した場合の取得費は、被相続人の取得価額が取得費となります。贈与により取得した場合と同様に、被相続人が取得するために支払った金額と時期を引き継ぎます。(なお、限定承認の場合の取得費は、相続人が相続したときの時価になります)

 

 

 

譲渡費用

譲渡費用とは、譲渡するために直接かかった費用で、譲渡収入から差し引くことができます。

例えば、資産の譲渡のために支払った仲介手数料、運搬料、立退き料、取り壊し費用、名義書き換え料などです。

譲渡するために直接かかっていない費用、例えば、修繕費や固定資産税などの維持管理費用は譲渡費用に含まれません。

 

 

総合課税される譲渡所得

譲渡所得の計算方法

総合課税される譲渡所得は、総収入金額から取得費および譲渡費用を差し引いて計算します。また、総合課税の譲渡所得には50万円の特別控除が認められています。(譲渡所得が50万円に満たない場合は、その金額まで控除できます)

総合課税の譲渡所得 = 総収入金額 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除額 

 

 

相続による取得費加算の特例

相続により取得した資産について相続税の申告を行い、申告期限の翌日以後3年以内に譲渡すると、相続税額のうち一部を取得費に加えることができます。加えることのできる取得費の計算方法は以下の通りです。

取得費に加算できる相続税額 = 相続税額 × (譲渡した資産の相続税評価額 ÷ 相続した財産の合計額

#8 譲渡所得その2

#8 譲渡所得その2

譲渡所得その2では、土地建物等を譲渡した際の所得計算について記載しています。

土地建物等を譲渡すると総合課税ではなく、原則として分離課税となります。保有期間に応じて税率が異なりますので、留意が必要です。

譲渡所得その1では、総合課税される譲渡所得について記載しています。

譲渡所得その3では、分離課税される株式等の譲渡所得について記載しています。

 

保有期間の判断について

 

土地建物等を譲渡した場合は、譲渡した年の1月1日時点で譲渡した資産を5年間超保有していたか(以下、分離長期と記載)、5年間以下の保有期間(以下、分離短期と記載)かで税率が異なります。

 

事業所得又は雑所得に分類される土地建物等の譲渡について

 

取引の分類

 

所得区分
不動産販売を生業とする者が、販売するために保有する土地建物の譲渡

 

事業所得又は雑所得
・金融業者が担保権実行により土地建物を取得し、その土地建物を譲渡

・金融業者が代物弁済により土地建物を取得し、その土地建物を譲渡

 

事業所得

 

 

土地建物等でなくても、土地建物等の譲渡に分類される取引について

  • 株式等の譲渡でも分離短期として課税される取引

ア 譲渡された株式等の発行会社の総資産価額の70%以上が譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下の土地等である場合のその株式等の譲渡

 

イ 譲渡された株式等が譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のもので、かつ、その発行法人の総資産価額の70%以上が土地等である場合のその株式等の譲渡

 

・譲渡をした年以前3年以内のある時点において、その法人の株式又は出資の30%以上がその法人の特殊関係株主等によって所有されていたこと

 

・その法人の株式又は出資を譲渡した人がその法人の特殊関係株主等であること

・その年においてその法人の特殊関係株主等の譲渡した株式又は出資がその法人の株式又は出資の5%以上に相当し、かつ、その譲渡をした年以前3年内の譲渡と合わせると15%以上に相当すること

 

  • 借地権又は地役権の設定の対価としての権利金等で一定額以上のものは、不動産所得ではなく土地建物等の譲渡とされます

 

権利の種類 どのようなときに該当するのか
借地権の設定 権利金の額が土地価額の10分の5超である場合(ただし、地代の年額の20倍以下の場合を除く)
地役権の設定、特別高圧架空電線の架設、又は高圧ガス管の敷設等 権利金の額が土地価額の4分の1超である場合

(地代の年額の20倍以下の場合を除く)

 

 

土地建物等の譲渡所得の計算方法

土地建物等の譲渡所得は、収入金額から取得費及び譲渡費用を差し引き、さらに特別控除額を差し引いて計算します。

土地建物等の譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額

 

収入金額について

・固定資産税の未経過期間に対応する清算金がある場合は、精算金を加算した金額を収入金額とする必要があります。

 

・土地建物等の譲渡代価として、お金以外(権利等)で受け取った場合、時価で収入金額を計上します

 

 

取得費について

建物等の減価償却資産を売却した場合は、1月1日から売却時までの減価償却費を計上することができます。

 

土地建物等を取得する際に支払っている登録免許税、登記費用、不動産取得税、印紙税を取得費に計上することができます。

 

土地を造成する際に支払った費用、土地建物を取得し、1年以内に建物を取り壊すために支払った費用は取得費に計上することができます。

 

所有権確認の訴訟や違約金を支払っている場合、取得費に計上することができます。

 

譲渡費用について

該当する費用 該当しない費用
①    仲介手数料、収入印紙代

②    測量費、分泌・所有権移転登記費用

③    前契約の解約違約金

④    譲渡のための家屋等の取り壊し費用及び取り壊しされた家屋等の損失額(未償却残高)

⑤    立退き料

⑥    借地権譲渡時に支払った名義変更料

 

①    譲渡資産に係る固定資産税

②    譲渡資産の遺産分割に関する弁護士費用

③    相続登記費用(なお、取得費に該当)

④    事故の引っ越し費用

⑤    家屋等の修繕費

⑥    住所変更登記費用

⑦    抵当権抹消費用

⑧    税理士報酬

⑨    税金に関する相談費用

⑩    申告書作成費用

 

 

特別控除額について

区分 特別控除額
収容交換等により資産を譲渡した場合の特別控除 5,000万円
居住用財産を譲渡した場合の特別控除 3,000万円
特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除 2,000万円
特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除 1,500万円
農地保有の合理化等のために土地等を譲渡した場合の特別控除 800万円

 

#9 譲渡所得その3

#9 譲渡所得その3

譲渡所得その3では、株式等に係る譲渡所得について記載します。株式等に係る譲渡所得とは、株式等の譲渡による所得をいいます。特徴は総合課税ではなく、申告分離課税とされる点にあり、税率が決まっています。ストックオプションNISAについても記載していまので確認してください。

上場株式等の範囲について

株式取引は、大きく分けて上場株式等と非上場株式に分類されます。

  • 取引所上場株式(上場外国株式、上場新株予約権証券・上場新株引受権証書含む)
  • 上場新株予約権付社債
  • 上場外国投資法人の投資口(カントリーファンド)
  • 日銀出資証券
  • 外国市場で売買されている株式(ADRや会社型投資信託を含む)や新株予約権付社債
  • 上場優先出資証券
  • 公募株式投信の受益証券(ETF含む)
  • 上場株式等に係る単元未満株・同端株(買取請求)
  • 上場不動産投資法人の投資口(J-REIT)
  • 上場未公開株式等投資法人の投資口(ベンチャーファンド)

 

課税方式 譲渡区分 税率
申告分離 上場分

未公開分

15.315%

(住民税率5%)

源泉分離 上場分 確定申告不要

(なお、源泉徴収税率20.315%)

 

 

株式等の譲渡所得ではなく、他の譲渡所得とされるもの

株式形態のゴルフ会員権の譲渡→総合譲渡所得

同族株主が行う土地等の譲渡に類する株式等の譲渡 → 分離短期譲渡所得

 

NISAについて

 

 

 

 

ストックオプションについて

ストックオプションとは

ストックオプションとは、会社が従業員や役員等に対して発行するその会社の株式を取得することができる権利です。ストックオプションは、発行時に価格、行使期間等が定められて発行され、従業員や役員等のモチベーション向上を図ることが目的となることが多いようです。(ストックオプションを行使すると、一定の価格で会社の株式を取得できるため、会社の株価を高めることへのインセンティブとなるためです)

 

税務上のストックオプションは2つに分類されます

税務では、ストックオプションは税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションに分類されます。どちらに分類されるかで課税のタイミングが異なるため注意が必要です。

 

税制適格ストックオプション

税制適格ストックオプションに分類されるのは以下の場合です。以下に該当しない場合は税制非適格ストックオプションに分類されます。

対象者 次のいずれかに該当するもの(大口株主及びその特別関係者を除く)

・自社の取締役または使用人

・発行済み株式総数の50%超を直接または間接に保有する法人の取締役または使用人

期間 付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日までに権利行使すること
価額 1株当たりの権利行使価額は付与契約締結時の時価以上であること
制限 権利行使価額の年間合計額が1,200万円を超えないこと

 

 

 

 

ストックオプションの課税のタイミング

 

 

株式等に係る譲渡所得の計算方法について

株式等に係る譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用 + 譲渡した年の負債利子)

 

 

収入金額

 

取得費

株式等に係る譲渡所得の取得費は、株式等の購入金額の他に購入時の委託手数料、消費税等の費用が含まれます。また、同一銘柄を2回以上にわたって取得した場合の取得費は、購入ごとに取得単価を平均する方法(総平均法に準ずる方法)により計算します。

実際の取得費が、その株式等の譲渡収入金額の5%に満たない場合には、その5%相当額を取得費として申告できます。

 

 

譲渡費用

株式等に係る譲渡所得の譲渡費用には、証券会社に支払う売買委託に対する委託手数料、信用取引の「品貸料」、「信用金利」、「配当落ち調整金」等の支払いがく、株式等の取得のために要した借入金の利子で譲渡した年に支払われた金額などがあります。

 

譲渡した年の負債利子

#10 配当所得

#10 配当所得

配当所得とは、法人から株主や出資者が受ける配当、投資信託の収益分配による所得です。特徴は源泉徴収される点で、特殊な点は配当という名目でなくとも、配当とみなされる場合がある点です。

配当の源泉徴収と課税方法について

源泉徴収

配当金は支払う側が、あらかじめ源泉徴収し、源泉徴収後の金額で株主等に支払われます。源泉徴収の税率は上場会社等と非上場会社等により異なり、以下の通りです。

配当区分源泉徴収の税率
上場株式等の配当金所得税:15.315%
住民税:5%
非上場株式等の配当金所得税:20.42%
住民税:0%

上場株式等には株式等の投資信託、ETF、J-REIT等も含まれます。大口株主(発行済み株式総数の3%以上を保有する個人)の場合、源泉徴収税率は非上場株式等の配当金に記載の税率になります。

 

 

課税方法

配当所得の課税方法は、総合課税、申告分離課税、申告不要の3パターンです。

課税制度説明
総合課税他の所得と合算して申告する方法です。
申告分離課税上場株式等の配当等(発行済株式の3%保有者除く)については、総合課税に代えて、申告分離課税を選択することができます。この場合には、上場株式等の譲渡損失の金額と損益通算をすることができます。この制度を選択すると、配当控除は受けれません。
申告不要制度以下の配当等について、源泉徴収で済ませ確定申告を不要とする制度です。この制度を選択すると配当控除、源泉徴収税額の控除は受けれません。
 ・少額配当(10万円×配当機関月数÷12)
 ・上場株式等に係る配当(発行済株式の3%以上保有するものは不可)
 ・株式等の投資信託の収益分配

 

配当所得の計算方法

配当所得は、収入金額から株式などを取得するための借入金の利子を差し引いて計算します。

配当所得 = 収入金額 - 株式などを取得するための借入金の利子

 

 

収入金額に含めるべきもの

収入金額は、源泉徴収前の金額で計上します。

また、株主が自分の株式を法人に買い取ってもらった場合や出資の払い戻しの場合も、「みなし配当」として収入金額に計上する必要があるので注意が必要です。

 

 

株式などを取得するための借入金の利子

収入金額から株式取得のための借入金利子を差し引くことができます。差し引くことができるのは保有期間に対応した分だけです。法人が無配当の場合は、他の配当収入から差し引くことができます。

 

なお、申告不要制度を採用した場合は、借入金利子を差し引くことはできません。申告不要制度と総合課税の両方がある場合、全体に占める総合課税の割合を算出して、その割合分だけ借入金利子を収入金額から差し引くことができます。

 

配当所得の有利な制度

配当所得には、配当控除と申告分離課税等の有利な制度が設けられています。

 

配当控除

配当所得の課税方法のうち、総合課税を選択すると一定の税額控除を受けることができます。(申告不要制度、申告分離課税を選択すると配当控除を受けることはできません)

詳細は配当控除を参照してください。

 

上場会社等からの配当

上場会社等からの配当は申告不要と総合課税どちらも採用できます。以下は、配当所得に応じてどちらを採用すると有利になるのかを比較した表です。

配当(申告不要と総合課税)

源泉徴収税率が20.315%のため、所得税と住民税の税率と配当控除率を比較すると、課税所得が695万円までは、総合課税を選択したほうが有利となります。(なお、J-REIT等は配当控除対象に含まれないため注意が必要です)