#1 入手すべき情報

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確定申告をするためには、帳簿を記帳して決算を行い、申告書を作成する必要があります。記帳は会計ソフトを使えば、仕組みを理解していなくても問題なく行えます。ただし、記帳するためには、必ず入手しておかなければいけない情報があります。記帳を理解することは、その情報のもらい方を理解することともいえます。

記帳に最低限必要な情報

記帳に必要な情報は4つだけです。最低限この4つだけを押さえておけば、記帳を行うことができるため、領収証などをもらうときは、以下の情報が全て入っているか念のため確認してください。(コンビニなどの領収証(レシート)は、この4つの情報をすべて網羅しています)

 

取引の年月日

その年に発生したことが分かるよう取引の年月日が記帳のために必要です。領収証、受領書、検収書、完了証明書などを貰う際は、年月日が記載されていることを確認してください。

 

 

取引の金額

小売店で物を購入した場合などは、領収証に金額が記載されていないことはほとんどありませんが、例えば、契約や物納を優先し、金額の取り決めを行っていない場合などは、経費として認められない可能性があります。

 

 

相手方の名称

コンビニでものを買えば、領収証にコンビニ名が入ります。後日、誰との取引だったのかを検証できるようにするため、取引の相手方の名称を記録しておく必要があります。飲食店などの領収証には必ず店名、住所、電話番号が入るため、自分で相手方の名称等を記載する機会はほとんどありませんので心配は不要です。

 

 

取引の目的

飲食店などで取引先を接待した場合など、領収証にはお店の名前と金額は記載されますが、取引先の名称は記載されませんので余白に人数と取引先の名称をメモしておきましょう。物を買った場合は、商品名が領収証に記載されますので問題となりません。

 

 

 

簡易な記帳が認められています(事業所得者を例に)

簡易な記帳方法を、青色申告者の場合と白色申告者の場合それぞれ解説します。

 

青色申告の事業所得者の場合

現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳が標準的な5種類の簡易帳簿です。

 

①現金出納帳

取引を行った順番ごとに現金の出し入れを記載する帳簿です。現金取引の売上帳と仕入帳を兼ねます。

伝票、納品書控などを保存し、取引内容(品名、数量、単価等、以下同様です)が確認できれば、相手別に日々の合計金額のみを一括して記載すること ができます。

 

②売掛帳  

得意先ごとに勘定内訳を設けて、掛売りや回収の状況を記載する帳簿です。勘定内訳を作成して、家事消費や事業用消費を記載することもできます。

納品書控などを保存し、取引内容が確認できれば、得意先別にまとめて記載することもできます。

 

③買掛帳

仕入先ごとに勘定内訳を設けて、掛買いや支払の状況を記載する帳簿です。

納品書控などを保存し、取引内容が確認できれば、仕入先別にまとめて記載することもできます。

 

④経費帳

仕入以外の費用(租税公課、水道光熱費、旅費交通費、給料賃金な ど)の科目ごとに、勘定内訳を設けて記載する帳簿です。

原則、家事消費を除いて記載しますが、例外として、家事消費を除かずに記載し、年末に一括して差し引くこともできます。

 

⑤固定資産台帳

事業用の減価償却資産等を個々の資産ごとに勘定内訳を設けて記載し、減価償却費の計算元となる帳簿です。(減価償却方法は、事前に税務署への届け出が必要なため留意してください)

 

 

なお、青色申告者には条件を満たせば、現金主義による記帳も認められています

不動産所得及び事業所得の金額を、「現金主義」(収入と費用の計上時期を、現金の収受時期とする方法)によって計算し、青色申告をすることができます。この特例を選択するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

 

・前々年分の事業所得及び不動産所得(青色事業専従者給与の控除前)の合計額が300万円以下

 

・青色申告を始めようとする年の3月15日ま でに、税務署に「所得税の青色申告承認申請書(兼)現金主義の所得計算による旨の届出書」を提出

 

 

白色申告の事業所得者の場合

ボリュームがあるため、内容は売上に絞って記載していますが、仕入れや経費についても、同様に簡易な記帳が認められています。

 

・小売店、飲食店などの現金売上は、一つ一つの取引ではなく、日々の合計金額のみを一括して記載すること ができます。

 

・納品書控や請求書控等を保存しており、その内容を確認できる取引については、一つ一つの取引ではなく、日々の合計金額のみを一括して記載することができます。

 

・納品書控・請求書控等を保存しており、掛売上の内容を確認できる取引については、日々の売上記帳を省略して、現実に代金を受け取った時に現金売上として記載することができます(ただし、年末に売掛金の残高を記載する必要があります)。

 

・家事消費した棚卸資産ついて、年末に消費した種類別にその合計金額を見積もって、合計金額のみを一括記載することができます。

 

#2 領収書の整理方法

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事業をしている方は、経費になる領収書をもらい記帳したら、必ず保管する必要があります。法律で保管が定められているためですが、どうやって整理して保管するのかといった具体的な方法は指定されていません。そこで、当ページでは、領収書の代表的な整理方法と保管方法をご紹介します。

領収書を集めよう!

記帳対象となる領収書の範囲

個人事業主が経費にできる支出は、事業に関連のある支出に限定されています。そのため、プライベートでお金を使って領収書をもらっても、事業の経費にすることはできません。集める領収書は事業に関連のあるものだけにして、プライベートでの領収書は含めないよう注意してください。

 

 

事業に関連のある支出について

事業に関連のある支出か否かは、個々の事業者によって違います。

 

例えば、プロ野球選手が仕事用のグローブを買うと経費として認められますが、プロ野球選手以外の方がグローブを買っても経費として認められません。

 

そのため、何が経費となる支出なのかを一概に記述することが難しく、領収書を集め記帳する人が考えなければなりません。

 

難しくきこえるかもしれませんが、自分の事業に少しでも関連していれば経費となりますので、判断に迷うものが出てきたら、インターネットや書籍で調べていけば、領収書は十分に1人で選別できます。

 

 

事業に関連があるのか迷いやすい支出

判断に迷いやすいものを具体的に見ていきましょう。

 

≪洋服や靴など≫

スーツや革靴を身に着けて仕事をする個人事業主の方も多いと思います。スーツと革靴がないと仕事にならない場合でも、原則これらは経費として認められません

 

一般的に、スーツや革靴は私用としても使用することが可能なためプライベート用と事業用に明確に区別することができないためです。

 

例外的に事業にしか用いないと判断できるスーツや革靴、例えば、屋号がスーツに縫い取られていて私用ではないことが明らかにわかる場合などは経費とすることができます。

 

 

≪食事代など≫

お取引先と食事や打ち合わせでレストラン、喫茶店を利用することは多いと思います。お取引先や見込み客との食事代は問題なく経費とすることができます。

 

では、1人で食事をしたときや家族・友人と食事をしたときはどうでしょうか?

原則として、1人での食事や家族等との食事代は経費として認められません。

 

しかしながら、飲食業を営む個人事業主が他店を参考にするために、食事をするのであれば経費として認められる可能性が高いです。このような場合は、お店の外観、内観そして食事メニュー等を写真に収めてパソコンやスマホに保管しておけば証拠となります。訪問レポートを作成しておくとなお良いでしょう。

 

 

領収書の整理と保管方法

用紙に添付しよう!

領収書が集まったら、A4のコピー用紙に領収書を貼っていきます。日付順に添付していくと、後で検索しやすいのでおすすめです。

 

≪領収書の添付例≫

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≪領収書の添付例≫にはポイントが2つあります。

point1

領収書一枚一枚に連番を振っていきます。領収書に記載する連番は、新しい用紙になったら①からまた番号を振ります。

 

point2

A4用紙の右下に連番を振っていきます。何月の用紙なのかをわかるように、7月-1、7月-2・・・、8月-1、8月-2、8月-3・・・と振ってもよいでしょう。

 

 

帳簿の摘要欄に記載する

上記①の領収書を帳簿に記帳するときに摘要欄に次のように記載しておきます。

摘要:1-① 〇〇〇〇(商品、サービス名)

このように記載しておくことで、帳簿の摘要欄から領収書にアクセスすることができます。

 

 

ファイリングして保管

領収書を添付した用紙は2穴ファイルで定められた期間(領収書は7年間)保管してください。保管せずに破棄してしまうと、税務調査があったときに、帳簿の経費を証明することができなくなってしまいます。

#3 記帳方法

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入手すべき情報領収書の整理方法を理解したら、いよいよ記帳です。クラウド型の会計ソフトでもインストール型の会計ソフトでも入力すべき情報は変わりませんが、インターフェイスの部分が大きく異なりますので、具体例を用いてそれぞれ解説します。

はじめに

クラウド型とインストール型の会計ソフトはそれぞれ入力方法が異なります。

 

クラウド型では、カメラで読み込んで自動記帳する方法を採用することができ、最大の特徴のひとつにもなっています。また、カメラで撮った画像の読み込み以外にも、手入力が可能となっています。

 

一方でインストール型の会計ソフトも直接仕訳を入力する方法を採用することもできますが、記帳をサポートする機能もクラウド型同様に充実しています。

 

ポイントはクラウド型、インストール型のどのような記帳方法を採用しても仕訳(記帳される結果)は同じになるという点です。入力方法をいかにサポートするかという点が、インターフェイスの違いに表れているだけで記帳結果が異なることはありません

 

 

クラウド型の会計ソフト

クラウド型の会計ソフトで、シェア1位の『freee』を例に記帳方法を解説します。

 

クラウド型の会計ソフト記帳手順

まず、freeeにログインして以下の通りに進んでください。

freee1

 

 

入力画面に移動したら領収書の整理方法に載せている領収書を入力してみます。

 

freee2

 

これで完了です!

 

 

クラウド会計ソフト補足

freeeの特徴的な記帳方法に「スキャンで経理」があります。領収書をカメラで撮影してfreeeに取り込むことで自動で金額や日付といった情報を入力することができる方法です。

 

せっかくクラウド型の会計ソフトを使用するのであれば、スキャンした画像データを利用して記帳することをお勧めいたします。当ページでは記帳方法とその内容を理解していただくために手入力の方法を解説しています。

 

 

 

インストール型の会計ソフト

インストール型の会計ソフトで、シェア1位の『弥生会計』を例に記帳方法を解説します。

 

インストール型の会計ソフト記帳手順

まず、弥生会計を立ち上げて以下の通りに進んでください。

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「かんたん取引入力」の画面で領収書の整理方法に載せている領収書を入力してみます。

 

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これで完了です!

 

 

インストール会計ソフト補足

大量の領収書を入力する場合、エクセルシートに取りまとめて会計ソフトにデータインポートする方法がおすすめです。(クラウド型の会計ソフトでもエクセルインポートは可能です)

#4 会計のルール

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会計のルールは、会計原則と呼ばれています。法律ではないのですが、会計原則に従っていない貸借対照表、損益計算書、その他帳簿類は一般に公正妥当なものと認められません。

会計原則は様々ありますが、個人事業主が特に意識しておくべき会計原則に絞って解説します。

一般原則

一般原則は、全部で7つあります。(①真実性の原則、②正規の簿記の原則、③資本利益の区分の原則、④明瞭性の原則、⑤継続性の原則、⑥保守主義の原則、⑦単一性の原則)

 

もともと、企業向けに作られた原則のため、個人事業主にはあまり関係のないものも含まれています。個人事業主であれば、①、②、④、⑤を覚えておけば十分でしょう。いずれも難しくありません。

 

 

①真実性の原則について

言葉の通り、真実に基づいて報告してくださいということです。

 

 

②正規の簿記の原則について

帳簿記帳は、もれなく網羅的に、後日検証可能な証憑に基づいて、秩序だてて行ってくださいというものです。正規の簿記は、複式簿記を採用すれば問題ありません。

 

 

④明瞭性の原則について

明瞭に表示して、見る人に誤解を与えないでくださいというものです。

個人事業主の場合、税務署、取引先、金融機関に決算書を見せる機会があり得ます。一般に使用されない勘定科目を使用してしまうと見る人に伝わらない可能性もあります。

勘定科目の使い方に気をつければ問題ありません。

 

 

⑤継続性の原則について

一度、会計の方法(会計方針といいます)を決めたら、みだりに会計方針を変更せずに、毎期同じ方法を採用してくださいというものです。

 

例えば、去年と同じ取引を今年もしていたとします。会計方針を変えると、同じ取引なのに去年とは異なった決算書となってしまい、比較が困難になったり、決算書の操作が可能となってしまいます。このようなことを防止するために、会計は継続して行うことを原則としています。

 

ただし、正当な理由があれば、一度採用した会計方針も変更することができます。

 

 

 

 

損益計算書原則

損益計算書原則も複数ありますが、個人事業主の場合、発生主義の原則費用収益対応の原則の2つだけ覚えておけば十分です。

 

 

発生主義の原則について

発生主義の対義語である現金主義から説明をしたほうが分かりやすいため、現金主義、発生主義の順番で説明します。

 

 

現金主義とは、現金を貰った時に収入を計上し、現金を払った時に経費を計上する方法です。家計簿が分かりやすい例です。

 

 

発生主義とは、現金を貰う事実が確定したときに収入を計上し、現金を払う事実が確定したときに経費を計上する方法です。

 

 

例えば、12月に買い主へ物を引き渡し、その支払いを1月にしてもらう契約をしたとします。発生主義の場合、12月に現金を貰う事実(物の引き渡し)が発生しているため、12月に収入を計上します。(現金主義の場合は1月に入金されたときに収入を計上)

 

 

発生主義を採用することで使用する勘定科目

発生主義に基づいて帳簿記帳をする場合、未収収益、前受収益、未払費用、前払費用、減価償却費、各種の引当金などの勘定科目を使用することになります。

 

未収収益、前受収益について

未収収益は、例えば、物やサービスを顧客に継続的に提供し、お金をまだ貰っていない(貰える事実は確定している)ときに計上します。(複式簿記だと[未収収益○○円/収入○○円]と表現されます)

 

前受収益は、例えば、物やサービスの提供を継続的にする約束をして、お金を受け取った(物やサービスの提供はまだしていない)ときに計上します。(複式簿記だと[現金○○円/前受収益○○円]と表現されます)

 

 

未払費用、前払費用について

未払費用は、例えば、物やサービスの提供を継続的に受け、お金をまだ払っていない(払う事実は確定している)ときに計上します。(複式簿記だと[経費○○円/未払費用○○円]と表現されます)

 

前払費用は、例えば、物やサービスの提供を継続的にしてもらう約束をして、お金を支払った(物やサービスの提供はまだされていない)ときに計上します。(複式簿記だと[前払費用○○円/現金収益○○円]と表現されます)

 

 

減価償却費について

減価償却とは、例えば、長期間にわたって使える資産を購入したときに、その年に全額経費とするのではなく、複数期間にわたって経費にする会計方法です。

 

個人事業主の場合、青色申告者であれば30万円未満(白色申告者は10万円未満)の資産は、全額その年の経費にできますが、30万円以上の場合は資産に計上し、決められた方法で減価償却を行い、その年ごとに費用(経費)を計算する必要があります。(会計ソフトがあれば自動で計算できます)

 

 

 

各種の引当金について

引当金とは、将来発生する可能性のある事実を、現時点で推定し経費とする特殊な勘定科目です。

 

例えば、貸倒引当金等があります。貸倒引当金とは、掛け売りを行ったり、資金を貸し付けた時などに、貸し倒れる分を見積もってあらかじめ経費としてしまうときに使用する勘定科目です。節税対策に使用できる科目のため、そちらも参照してください。

 

 

 

費用収益対応の原則について

費用収益対応の原則とは、収益(収入)を獲得することに貢献した費用(経費)だけを選んで対応させなさいという決まりのことです。

 

例えば、1本300円のバナナを1万本売って300万円の収入があったとします。バナナは1本200円で仕入れていたとすると、経費に計上できるバナナの金額は200万円(200円×1万本)です。

 

仮に、バナナを3万本仕入れて、2万本販売したとします。この場合、収入は600万円(2万本×300円)、経費は400万円(2万本×200円)となります。収入に経費を個別に対応させることができる関係にあるといえます。

 

一方で、収入に経費を個別に対応させることができないものもあります。例えば、バナナを売るために店舗を年間120万円で借りていたとします。バナナをひとつ売るために、120万円の家賃のうち、いくらが収入を獲得するために貢献した費用なのかはわかりません。

 

このような場合は、期間で対応させます。年間のバナナ販売収入に対応する分の年間店舗家賃を経費に計上することができます。

 

 

#5 所得税の全体像

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個人事業主が納める必要のある税金は、全部で4種類です。

そのうちの1つである所得税について解説します。複雑でわかりにくい印象のある所得税の計算ですが、まず、全体像を理解するところから始めてみましょう。所得税を検討していく過程で、どの部分を検討しているのか、判らなくなったら、このページに戻って確認してください。

所得税の4Step

所得税計算の計算は、おおむね4Stepに分類されます。初めにフローチャートを確認してみましょう。(左から右に流れます)

全体像

 

Step 1 所得の判定と計算

1月1日から12月31日の間に得た収入が、10種類の所得のうち、どれに該当するのかを判定します。所得の分類ができたら、各所得ごとに収入金額から経費金額を差し引いて、所得の金額を算定します。

 

10種の所得詳解にそれぞれの所得ごとの計算方法を記載していますので、ここでは簡単に10種の所得を紹介します。(下記は税法の順番です、所得税詳解では実務で多い所得の順に記載しています)

 

1.利子所得・・・預貯金等の利子にかかる所得

2.配当所得・・・株式等の配当にかかる所得

3.不動産所得・・・不動産等の貸付にかかる所得

4.事業所得・・・事業にかかる所得(不動産貸付除く)

5.給与所得・・・勤務先からもらう給与にかかる所得

6.退職所得・・・勤務先からもらう退職金にかかる所得

7.山林所得・・・5年以上保有した山林を譲渡したときにかかる所得

8.譲渡所得・・・不動産等を譲渡したときにかかる所得

9.一時所得・・・1~8に該当しないもので生命保険等にかかる一時の所得

10.雑所得・・・年金等で1~9のいずれにも該当しない所得

 

 

 

Step 2 課税標準の計算

Step1で算定した10種類の所得金額を、定められた順番で損益通算します。さらに損益通算した金額から損失の繰越控除を行い、課税標準を算定します。

 

 

Step 3 課税所得金額の計算

Step2で算定した課税標準から所得控除を行い、課税所得金額を算定します。

 

 

Step 4 申告納税額の計算

Step3で算定した課税所得金額に税率をかけて、算出税額を算定します。算出税額から税額控除源泉徴収を差し引いて申告納税額を算定します。

 

 

 

税率の低い有利な所得

長期譲渡所得と一時所得

全体像をみると、長期譲渡所得一時所得損益通算の後、2分の1されていることがわかります。短期的な売買によるものではなく担税力が低いと考えられているため長期譲渡所得は優遇されています。また、一時所得についても、偶発的な所得という性格から担税力が低いと考えられているため優遇されています。

 

 

山林所得

山林所得の税額計算方法は、5分5乗方式という特別な計算方法により優遇されています。(詳細な計算方法はこちらを確認してください)山林所得も収入を得るために長期間を要すると考えられ担税力が低いため優遇されています。

 

 

 

 

共通ルール、用語の使い方

所得税法には共通ルールがあります。また、用語も税法では意図して使い分けている部分があるのでご紹介いたします。全体像と合わせてはじめに理解しておくとよいと思います。

 

 

収入金額と総収入金額

10種類の所得計算では、「収入金額」と「総収入金額」という似た用語が用いられています。違いは「収入金額」が単純な形態の収入であるのに対し、「総収入金額」は複数の形態の収入がある場合に用いられています。

 

 

収入計上時期

その年の収入になるのか、あるいは翌年の収入になるのかは、税金の額に直結するため慎重に判断することが求められます。

原則として、収入を計上する時期は、実際にお金を受け取った時ではなく権利が確定した時期によるものとされています。お金ではなく、物や権利を得た場合は、その権利を取得した時期(計上額は時価です)に収入を計上します。

 

 

必要経費

10種類の所得計算では、必要経費という用語が用いられています。収入を得るために必要であった経費を差し引いて所得を求めますが、「必要経費」という用語が使われているのは、不動産所得、事業所得、山林所得そして雑所得(公的年金等以外)の4種だけです。

 

この必要経費は、売上原価と販売費及び一般管理費等(以下、販管費等)に分類され、売上原価は収入に個別に対応させ、販管費等は1年間という期間で収入に対応させます。

 

 

#6 損益通算

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10種類の所得計算が終わったら、次は損益通算です。

 

損益通算とは、不動産所得、事業所得、譲渡所得(総合)、山林所得等の計算から生じた損失を、ほかの所得から差し引くことをいいます。

 

損益通算を行うことで、担税力(税金の負担能力)に応じた税負担が実現できるとの考えに基づいて定められている制度です。損益通算は、特段事前に届け出は不要ですが、損失を翌年以降に繰り越す場合は届け出が必要です。

損益通算の対象となる損失、ならない損失

損益通算の対象となる損失

損益通算できる損失は限定されており、次の損失に限られています。

1.不動産所得、事業所得、譲渡所得(総合)および山林所得から生じた損失
2.上場株式等の譲渡により生じた損失(※)

※上場株式等の譲渡損失は、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得に限って損益通算が可能です。

 

 

損益通算の対象とならない損失

・利子所得、退職所得からは損失が発生せず、配当所得、給与所得、一時所得、雑所得から生じる損失は、損益通算の対象となっていません。

 

・生活に通常必要でない資産(趣味、娯楽、保養、鑑賞目的で保有する不動産、ゴルフ会員権、1個あるいは1組で30万円を超える貴金属、書画、骨董等)の譲渡により生じた損失は、損益通算の対象となっていません。

 

・不動産所得の損失のうち、生活に通常必要でない資産の貸付けにより生じた損失は、損益通算の対象となっていません。

 

・不動産所得の損失のうち、土地(地上権等含む)の取得に要した借入金の利子に該当する部分は、損益通算の対象となっていません。

 

・不動産所得の損失のうち、特定組合員の不動産所得損失は、損益通算の対象となっていません。

 

・株式の譲渡から生じた損失は、損益通算の対象となっていません。

 

・先物取引から生じた損失は、損益通算の対象となっていません。

 

・土地建物等の譲渡から生じた損失は、損益通算の対象となっていません。

 

 

 

損益通算は、グループごとに!

総合課税と分離課税

所得税の計算体系図をみると、大きく総合課税グループ分離課税グループに分かれています。損益通算はこのグループごとに行うことが原則です。

分離課税グループの中に短期譲渡所得と長期譲渡所得がありますが、分離課税グループの中で損益通算できますが、総合課税グループの譲渡所得と損益通算することはできません。

 

 

損益通算の順序

損益通算を行うにあたり、所得を経常所得グループ非経常所得グループにわけます。

経常所得グループ・・・利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得

非経常所得グループ・・・譲渡所得、一時所得

 

①経常所得グループで損益通算

不動産所得、事業所得から損失が生じた場合は、他の経常所得から差し引きます。

 

②非経常所得グループで損益通算

譲渡所得の総合課税グループで損益通算しても損失が残っている場合は、50万円の特別控除後で2分の1前の一時所得から差し引きます。

 

③経常所得に損失が残っている場合

①の損益通算後、経常所得グループに損失が残っている場合は、非経常所得グループから差し引きます。このとき差し引く順番は、短期譲渡所得、長期譲渡所得、一時所得です。

 

④非経常所得に損失が残っている場合

②の損益通算後、非経常所得グループに損失が残っている場合は、経常所得グループから差し引きます。

 

③又は④の損益通算をしても損失が残る場合は、山林所得(特別控除後)、退職所得(2分の1後)の順で損益通算します。山林所得で損失が生じた場合は、①又は④の通算後の経常所得グループ、総合譲渡所得、一時所得、退職所得の順で差し引きます。

 

 

 

損失の繰り越し(損益通算後)

損益通算をしても、損失が残ってしまった場合、この損失を3年間繰り越すことができます。翌年所得が生じれば、繰り越した損失をその所得から差し引くことができます。

 

なお、青色申告者は損失の全額を繰り越すことができますが、白色申告者は変動所得(漁業や養殖による所得、印税、原稿料、作曲料などの所得)の損失と被災事業用資産の損失(災害が原因で生じた損失のこと)だけしか繰り越すことが認められていません。

 

損失の繰り越しを行うためには、その年に確定申告をする必要があります。また、その年以降も継続して確定申告書を提出する必要があります。

 

上場株式等の譲渡損失は、その年分の申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得と損益通算できます。損失が残る場合、翌年以後3年間にわたり、確定申告することで繰り越して控除することができます。

#7 所得控除

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税金は、収入から経費を差し引いた所得に税率をかけて算出しますが、納税者にはそれぞれの境遇や事情などがあります。この境遇や事情に応じて、税金を負担できる能力が違ってきます。その負担能力(担税力といいます)に応じた公平な税負担とするために、所得控除が設けられています。なお、一部は政策的な目的で控除が認められているものもあります。

 

(収入 - 経費 - 所得控除) × 税率 - 税額控除 = 納税額

所得控除は大きく二つに大別されます。

1~7までが、損失や使ったお金に関する控除で、物的控除と呼ばれています。
A~Fまでが、人(自分、配偶者、扶養家族)に関する控除で、人的控除と呼ばれています。

所得控除の名称内容
1.雑損控除盗難、災害により損失が生じたとき

2.医療費控除
10万円超の医療費を支払ったとき
3.社会保険料控除国民年金や国民健康保険等を支払ったとき
4.小規模企業共済等掛金控除小規模企業共済等へ掛金を支払ったとき
5.生命保険料控除生命保険料を支払ったとき(最大12万円まで)
6.地震保険料控除 地震保険料を支払ったとき(最大6万5千円まで)
7.寄付金控除公共性の高い団体に寄付をしたとき
A.障害者控除 納税者(及び配偶者、扶養家族)が障害者になったとき
B.寡婦(寡夫)控除  寡婦(寡夫)になったとき
C.勤労学生控除学生で所得があるとき
D.扶養控除扶養親族がいるとき
E.配偶者(特別)控除配偶者がいるとき
F.基礎控除所得があるとき

 

 

非居住者(日本国内に住所がない方)の場合、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の三つだけ受けることができます。

#8 税額控除

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税額控除は、二重課税の調整や国の政策に合致するような支出については優遇する目的等から設けられています。所得控除は、収入から経費を差し引いた所得から控除されるのに対して、税額控除は、所得に税率をかけた税額から控除されます。用語が似ているので注意してください。

代表的な税額控除

税額控除には、様々な種類があります。配当、寄付金、住宅に関する控除等があり、代表的なものを紹介します。

区分名称内容
配当配当控除
配当外国税額控除
寄付政党等寄附金特別控除
寄付認定NPO法人等寄附金特別控除
寄付公益社団法人等寄附金特別控除
住宅住宅借入金等特別控除・住宅を新築又は新築住宅を取得した場合
・中古住宅を取得した場合
・要耐震改修住宅を取得し、耐震改修を行った場合
・増改築等をした場合
住宅特定増改築等住宅借入金等特別控除・借入金を利用して省エネ改修工事をした場合
・借入金を利用してバリアフリー改修工事をした場合
住宅住宅特定改修特別税額控除・省エネ改修工事をした場合
・バリアフリー改修工事をした場合
住宅認定住宅新築等特別税額控除認定住宅の新築等をした場合
住宅住宅耐震改修特別控除耐震改修工事をした場合

 

#9 源泉徴収

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源泉徴収とは、従業員に給与の支払いをする場合、士業へ報酬の支払いをする場合に所得税と復興特別所得税を差し引いて支払うことを言います。

差し引いた(源泉徴収した)所得税等は、支払いを行った人が税務署に納める必要があります。

源泉徴収をする義務のある方

給与の支払いを行う人には、原則として源泉徴収をする義務があります。

例外として、以下のような個人の場合には、源泉徴収をする必要はないとされています。(法人の場合は異なりますので注意してください)

 

ベビーシッター家政婦さんだけに給与を支払っている人

 

給与や退職金の支払がなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている人(例えば、給与所得者が確定申告などをするために、税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません)

 

士業への報酬については、後ほど詳細に記載しますので参照してください。

 

 

源泉徴収の手続き

事前に届出書の提出

新規に事業を始める時

個人事業主として、新たに事業を始める時は、「個人事業の開業等届出書」を提出します。この届出書に従業員の状況を記載する箇所があるため、「給与支払事務所等の開設届出書」の提出は不要です。

 

 

事業を既に行っている時

個人事業主として既に開業していて、従業員を雇うこととなった場合、「給与支払事務所等の開設届出書」を1か月以内に税務署に提出する必要があります。

 

 

 

源泉税の納付期限

原則

源泉徴収した税金は原則として、給与等を支払った月の翌月10日まで納める必要があります。

 

 

特例

原則通りだと毎月源泉税を納める必要があり大変です。そこで納付期限の特例が設けられています。特例が適用されると年2回の納付で済ませることができます。

 

1回目の納付期限・・・1~6月分を7月10日までに納付

2回目の納付期限・・・7~12月分を1月20日までに納付

 

 

特例は、以下の2つの要件を満たせば適用することができます。

 

要件1 従業員が常時10人未満

要件2 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」※を提出

※提出期限はなく、提出した翌月に支払う給与から適用されます(=翌々月の納付から適用)

 

 

 

納付方法

納付方法は大きく分けて2通りあります。納付用紙の記載と納付場所へ行くのが手間となるため、e-Taxの利用をおすすめします。

 

1.銀行、郵便局あるいは税務署で納付用紙を提出して納付する

納付用紙は税務署で入手することが可能です。(年末調整の資料と合わせて税務署から送付されてきます)

 

また、金融機関にも、源泉税専用ではありませんが、納付書があるため利用することができます。

 

納付書の記載方法はこちらを参照してください。

 

 

2.e-Taxを利用して申告し、ATM、インターネットバンキングで納付、あるいはダイレクト納付する

まず、e-Taxを使って源泉税の申告をします。申告した金額をATMで納付することができます。詳細は源泉税の申告・納税方法を参照してください。

 

 

 

士業への報酬

従業員から給与の源泉徴収をするのと同様に、弁護士や税理士等の士業に報酬を支払う場合も源泉徴収をする必要があります。

 

源泉徴収の範囲

士業に支払う報酬からは、原則として源泉徴収する必要がありますが、以下のようなものは源泉徴収の対象となる報酬に含める必要はありません。

 

・登記など国へ支払うことが明らかなもの(登録免許税など)

・通常の範囲内の交通費、立て替えたホテル代など

 

士業からの請求書に、報酬とは別に例えば調査費や日当などが加算されている場合があります。この場合、登記や交通費などに該当しないため報酬に含めて源泉徴収する必要があるため、留意が必要です。

 

 

士業の源泉徴収額

士業からの源泉徴収額は以下の通りです。(10%が所得税、0.21%が復興特別所得税です)

士業への支払い金額(=A)源泉徴収する額
100万円以下A × 10.21%
100万円超(A - 100万円) × 20.42% + 102,100円

 

例1 

税理士から報酬15万円の請求書が届いた場合、源泉税の15,315円(15万円×10.21%)を差し引いた134,685円を支払うこととなります。(相手が税理士なら源泉税の金額を聞いてしまってもよいでしょう)

 

例2

弁護士から報酬190万円の請求書が届いた場合、源泉税の285,880円((190万円―100万円)×20.42%+102,100円)を差し引いた1,614,120円を支払うこととなります。

 

 

消費税の取り扱い

士業から届いた請求書に記載の報酬の額に消費税等が含まれている場合、原則として、消費税等の額を含めた金額を源泉徴収の対象とします。

 

例外として、請求書に記載の報酬と消費税等の額が明確に区分されて記載されている場合、報酬のみを源泉徴収の対象とする金額としてよいこととなっています。